江戸期の女性の理想像は、撫で肩、柳腰であり、いわゆるグラマラスな四肢は敬遠された。
当然、女形もその姿態を写実し近づこうとする。そして、究極的には「艶」や「粋」を醸し出す。
(中略)
撫で肩に矯正するには、貝殻骨(肩甲骨)を寄せて肩を落とす形を体得する。肘を張ってはいけないし、脇も離してはいけない。
「脇の下に半紙をはさんで落とさないようにしていました」
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歌舞伎の女形の姿勢について語る澤村田之助さん。立ち居振る舞いの演技も重要ですが、女性を意識して体型を演出することもポイントとのこと。それが“撫で肩”と“柳腰”のようです。
そして、撫で肩のコツは、肩甲骨を合わせるように背中の筋肉絞り、肩を下に落とすことらしいですね。肘を脇から離さない腕の使い方が、着物に合う姿勢の制約になっている。
“肩を下げると横隔膜が上がる”といった話を読んだことがありますが、帯でお腹周りをギュッと締めるためにも肩を下げる(横隔膜を上げる)ことがポイントなのかもしれないですね。横隔膜を上下させる腹式呼吸ですと、帯で圧迫されているお腹が苦しいですから。それに、お腹が膨らんだり縮んだりすると運、帯が緩んで着崩れしてしまいますよね。
肩を下げるポイントは、肘を脇につける感覚。女性の着物姿は、脇を大きく開けて動く感じではないですよね。袖を振り回さないために肘を動かさない。肘から先だけを動かすようなイメージ。指先がとてもしなやかな動きに見える理由は、肩ではなく肘を中心とした腕の円運動んにあるのかもしれないですね。つまり、“撫で肩”というのは、上腕(肘と肩)の運動を放棄した状態に感じます。
服装にあった身体の使い方。和服というのは、日本人が撫で肩だったからこういった仕様になったのか、和服を着るために撫で肩になったのか…“卵が先か、鶏が先か”どうなんでしょう?
御輿や盆踊りなど、肩から大きく動かすときには“たすき”をして袖やたもとが乱れないようにしているので、動作と衣服の関係は他の文化圏よりも密接なものに感じています。
たとえば、江戸時代の庶民のマナーと言われる“江戸しぐさ”の中にある“肩引き”という仕草。道で人と対面したときに、自分から道を譲って敵意がないことを示すというもの。
これも、和服だから生まれたマナーに思えます。肘を脇につけているので、腕を大きく振って歩けない。だから、自然と肩が引きやすく、スッと道を譲る姿が美しい。
イメージ的には、スケートの回転ジャンプのように、腕を体に密着させた方が素早く回ることができるような感じでしょうか。肘を脇から離して大きく手を振ると、相手の方にぶつかってしまいますもんね。
自由で楽である前提に、こうした“制約”が付け加えられることで“美”になる。「艶」や「粋」といった雰囲気は、作法という型の中で感じられるもの。
夏の花火大会やお祭りで浴衣や甚平姿を見かけると、日本の様式美が体感できる特別な季節に感じます。動きにくい服装で動作が制約される瞬間。ルールガチガチで不自由な中で、整った立居振る舞いや仕草の追求。お茶やお華など、日本の文化・様式美のカギは“制約”にあるのかもしれないですね。