「私は、あなた方の半分しか力は使わないが、斬れ味は何倍にもなる」
(中略)
もともと日本刀は、重力と刀そのものの形を絶妙に利用した武具である。一・五~二キロと重く、反っているので、構えた時にも、そのバランスを少し変えることで手で握っている柄がフッと浮き上がる。
野球選手のバッティング・トレーニングなのに、刀を使用するという興味深いくだり。日本刀を全力で振って全身筋肉痛に、苦労の末、榎本さんが身をもって気づいた発見。
それは、日本刀を上段に振りかぶるのに筋肉は必要なこと。そして、反り返った刃は落とすだけでスパっと斬れること。必要なのは、“刀の重みとバランスする感覚”と体得。
そして、宮本武蔵の“刀の握り(小指と薬指だけで軽く抑える)”や、相手に近づくことで斬る“秋猴(しゅうこう)の身”は、刀の重みを使うための合理的な剣術の理合と悟る。
榎本さんは「バッティングは剣道の『胴』と同じ」という言葉の意味を理解した結果…
巻きワラを真刀で斬ると、最初のうち、その斬れ跡が斜め上を向いていた。自分では水平に振っているはずでも、刀の軌道は自分の意図に反して、いったん沈んでから腕の力ですくい上げるように振っていたのである。
ところが、刀の重みを感じ、川面に浮かぶウキをイメージしながらフッと沈む時に振り落とせば、自分のイメージ通り切れ跡は水平になった。
バットも同じ…重みを利用する方がイメージどおり思い通りに振れるという感想を述べられていました。腕力で力任せに振ってしまうと重みが暴れてしまう。筋力が軌道を乱す“邪魔”をしているというのが興味深いです。